藤野恵美『ハルさん』
藤野恵美の『ハルさん』(東京創元社)です。
昨年の『本格ミステリ・ベスト10』第23位。
自分はベスト5の投票では、票を入れなかったのですが、結構、好きな作品なので、書いておきたくなりました。
『ハルさん』は「日常の謎」系の本格ミステリなので、もちろん陰惨な殺人事件などは出てきません。とってもハートフルな父と娘の物語。
主人公の「ハルさん」こと春日部晴彦は、若くして妻を喪った、気の弱い人形作家。
幼い「ふうちゃん」こと春日部風里と二人で暮らしている。
連作短編になっていて、
第一話が「ふうちゃん」の幼稚園時代、第二話が小学校時代、第三話が中学校時代、第四話が高校時代、第五話が大学時代となっており、「ふうちゃん」が育ってゆく過程でさまざまな不思議な出来事が起ります。
「ふうちゃん」が幼稚園の友達の卵焼き泥棒の疑いをかけられたり、小学校の夏休みに失踪したり。
気の弱い「ハルさん」は、そのたびにうろたえるのですが、すると、「ハルさん」の頭の中に亡くなった妻の「瑠璃子さん」の声が聞こえてきて、すべてを見通す名探偵のように一つ一つ謎を解いていってくれます。
そうして、謎が解けるとともに、「ふうちゃん」も「ハルさん」も少しずつ一緒に成長してゆき、やがて「ふうちゃん」は綺麗なお嫁さんになってゆく、という物語。
「日常の謎」系の心臓でもある伏線もなかなかきっちり張られているので、むしろ、ミステリなどあまり読まないという入門者の方にも強くオススメの作品です。
女性らしい発想と、児童文学の作家らしい温かい視線がうまくかみ合って、本格ミステリとしてはちょっと物足りない部分もある(とくに後半は失速気味)とはいうものの、一人の女性の成長の物語として、あるいは娘を持つ一人の父親自身の成長の物語として、なかなか読んでいて楽しいものがあります。
とくに一話ごとの「ふうちゃん」の描き分けは見事で、絵本を手に持って無邪気に探偵衣装を着ていたあどけない「ふうちゃん」が、成長するにつれ男親の「ハルさん」からは見えない存在になってゆき、やがて真っ白なウェディング・ドレスの似合う素敵な女性に、少しずつ微妙に変化してゆきます。
そして、起こる事件の内容も、「ふうちゃん」の年齢に応じた事件がそれぞれ用意されています。
第五話のタイトルが「人形の家」であることも、「ふうちゃん」の成長の物語であることを表しているのかもしれません。
もちろん、「ふうちゃん」が離婚をしたりするわけではないのですが、人形作家である「ハルさん」がいくつかの人形を作りながら「ふうちゃん」を育ててゆくことで、最終的に「ふうちゃん」は〈人形〉ではなくて一人の〈人間〉として「ハルさん」のもとから巣立ってゆく、そんな意味合いがあるのかもしれません。
しかし、やはりタイトルが「ハルさん」なので、時間があれば「ハルさん」の成長についてもゆっくり考えてみたい気がします。
個人的には続編も期待したいところですが、これはこれで終わった方がいいのかもしれない、と思う部分もなくはないです。
ラストは結構、感動できます。
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