写楽・考
かなり遅くなってしまったのだが、北森鴻の蓮丈那智シリーズ三冊目の単行本『写楽・考』を読み終えた。数あるシリーズもののなかでも、とくに好きなシリーズだったので、昨年の夏に刊行されてすぐに購入したのだが、最初の三作品(「憑代忌」「湖底祀」「棄神祭」)までは一気に読んで、そのあと急に忙しくなって、そのままほったらかしになってしまっていたのだ。ここへきて、少し時間に余裕が出てきたので、思い出して、最後の作品「写楽・考」を読み終えた、という感じ。
正直なところ、最初の「憑代忌」はちょっと不完全燃焼気味(私が)だったのだが、「湖底祀」「棄神祭」あたりで、だんだんこのシリーズの持ち味が出てきて、最後の「写楽・考」は本当に楽しませてもらった。
民俗学と本格ミステリの融合ということは、帯文やいろいろなところで言われているところであろうが、その民俗学的な謎と作中の現代で起こる殺人事件とが有機的に絡んでいて、それをまるで串刺しにするかのように、一気に蓮丈那智が解決してしまうところが、このシリーズの醍醐味なのである。
このシリーズの本格魂を指摘しながら、シャーロック・ホームズとの類似性を指摘したのは、法月綸太郎だったが(確か『凶笑面』の新潮文庫版の解説)、この『写楽・考』では、内藤三国以外にもう一人の助手(?)佐江由美子が活躍するので、だんだん明智探偵事務所じみてきた、と思ったのは、私だけだろうか?
「棄神祭」までの作品は、だいたい原稿用紙80枚ぐらいの連作短編となっているのだが、「写楽・考」だけは200枚超の中編クラスの分量になっていて、作者の力の入れようがよくわかる。同じ作者の他のシリーズのキャラクター・冬の狐が出てきたり、あの有名な画家の名前が出てきたり、かなり豪華な内容となっている。この「写楽・考」のみを読むだけでも、充分、読む価値あり、といえるだろう。
やはり、この人は美術系のミステリを書かせると、最も筆が生きてくる人で、とくに近代以前(日本では江戸期)が強いんだろうな、というのが、正直な感想。
もしかしたら、この「写楽・考」は蓮丈那智シリーズのちょっとしたターニング・ポイントとなる作品かもしれない、とも思うのだ。
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